5分が与えてくれること

ここのところ、あれこれと気ぜわしい日々が続いていました。

「ぜ〜んぶ放ったらかして何も考えずに過ごしたい!」
と思う一方で、
そういうあれこれに忙しくするのが嫌いな訳でもない

そんな性分であることは、
50年以上の付き合いで自分が一番知ってもいるという矛盾。

 

こんな時は、あえて手を動かしてみるのです。

お土産の自然薯
お土産の自然薯

無心に手を動かす

昼ご飯には、大事なお客さまがきます。

私にとって、気の置けない間柄、本当に大切なお客さまなのです。
どうも、相当にお疲れ気味の模様。

お客様のために、
朝ご飯を食べてすぐに、米を丁寧に研ぎ、

土鍋で浸水しておくことにしました。

旬を迎えた大好物の菊の花のガクをとる。
5分もあれば終わる作業ですが、

忙しい時にやろうとはなかなか思えないこの作業。
でも、お客様のためにと思うと、

丁寧にやる気にもなります。

この5分の前と後とで、

自分のカラダと心の中での時間の流れが

はっきりと変わるように思うのです。

 

食事を始めようと思う時間の30分前にタイマーをかけたら、

さて仕事を始めましょう。

ガクをとる作業にかかるのは5分ほど
ガクをとる作業にかかるのは5分ほど

アラームがなりました

アラームがなったら、きっぱり仕事はやめてエプロンをキリリ。

何年か前、ある人に、私がエプロンをしめる様子を
「戦闘準備って感じだね」と揶揄されたことがありましたっけw。

そんなことを思い出しながら、作業開始です。

 
まずは大根の煮物

大根と椎茸を、豚バラ肉と一緒に炒めてから、

ミニ鯖の煮干しを投入。

貝ヒモも入れてしまいましょう。

昆布水を入れて落とし蓋。
コトコト煮たら、みりんと醤油で味付けます。


最後は汁がなくなるくらいまで煮ると、ご飯にぴったりの煮物に。

大根が甘くなるこれからの季節、

この煮物はきっと何度も作ることでしょう。

 

冷蔵庫に茹でて置いてあったもやしは、

醤油と黒酢、花椒で調味します。

菊の花は酢水で湯がいてぎゅっと絞ったら、

甘酢で和えます。

親芋の土佐煮は、残り物。これも旬の味。

冷凍してあったカペリン(ししゃも)は、魚焼き器で焼いて。

千葉のお土産にもらった自然薯は、あたり鉢でなめらかに。

 

自然薯をあたりながら、

思い出したことがありました。

幼い頃、実家の縁側でのこと。
イワシのつみれを作るために
あたり鉢を手ぬぐいの上においてすりこぎを動かす母。
いい感じに日が差していて、気持ちのいい日でした。

 

好物のイワシのつみれ汁を作ってもらえるのが楽しみで
喜んであたり鉢をおさえていた私。

手は動きながら、
心は自由にあちこちに飛んでいきます。

炊きたての土鍋ご飯はそれだけでご馳走です

じっくり浸水したからピカピカに炊き上がりました
じっくり浸水したからピカピカに炊き上がりました

手を動かしているうちに、ご飯が炊き上がりました

しばらく蒸らして蓋を開けると、

幸せな気持ちになるくらいピカピカ!

おこげもあまりできずにいい感じ。

30分終了です。

時間ぴったりで出来上がりです。

いただきます!

波立っていた心が静かになっていきます

いつもよりゆったりと食事を楽しみ、

食後は、加賀棒茶を味わいます。

お客様である私」はとても満足してくれました。

そして「作り手の私」も満ち足りた気持ちになっています。

 

無心になって手を動かすことで料理が出来上がっていく。
波立っていた心が

静かになっていくのを感じていました。

「料理をする時間は無駄」
そんな声を耳にすることは少なくありません。

でも「効率」ばかりを追求していくと、
疲弊していく自分がいます。

暖かな日差しの中で、一人菊のガクをとる時間に、
小さな幸せを感じていました。

 

誰に言われたのでもなく、

自分の人生のうちの5分を菊のガクを取ることに当てる。
その5分は、他のすべてを忘れて。

そしてエプロンをしめてから30分間、

ただただ美味しいものを作るために没頭する。


そんな時間が愛おしく感じられた1日でした。