「戦争がつくった現代の食卓」を読んで

軍隊の食。
極限の状況の中でも体力を維持するだけでなく、士気を高めるようなものであってほしい。輸送にも適しており、保存期間も長くなくてはならない。

そんな食を研究しているアメリカのネイティック研究所を中心に、軍隊用の食事(レーション=糧食)として要求される要素を研究する先に、今私たちが享受している加工品の誕生があるとし、この本「戦争が作った現代の食卓」には、その例が多数あげられている。

加工食品だけではない。電子レンジやHACCPも

インスタントコーヒー、シリアル、エナジーバー、クッキー、粉ミルクやプロセスチーズ、レトルト食品、缶詰、瓶詰め、成形肉。こうしたすべてが軍用食品の開発に端を発している。

こうした研究から生まれた食品を取り除いたら、日本のスーパーの棚の多くはカラになってしまうだろう。

それだけではない。
日本でも導入されている食品安全管理の手法HACCP(ハサップ)も、そもそもネイティック研究所とNASAとが共同開発したもの。


電子レンジもまた、レーダーの研究をしていた際に誤ってマグネトロンの前に立っていた技術者のポケットの中のチョコレートが溶けたことから開発されることになったのだという。

 

私たちの日々の食は、軍隊用の食の開発の影響を大きく受けているのだ。

取材するうちに、食に対して楽観的になった、という著者

加工食品の恩恵には大きなものがある。

レトルトも瓶詰めも缶詰も使ったことがないという人はまずいないだろう。

それでも、保存期間を伸ばすなどのために不必要な添加物を加えられた食品が多く作られたり、例えば、ナチュラルチーズを加熱して溶かし、乳化剤を加えることで熟成を止め(ることで、乳酸菌は死滅している)て作られるプロセスチーズのように、見かけこそ似ているものの本来の食物とは本質的に異なる食品も生まれている。

著者はかつて、アメリカの食品業界の欺瞞を暴くことで知られた「悪女」だったという。

だが、この本の取材を終えてから、家族のために日々生鮮食品を買って一から料理するよりも、加工品を使って短時間で料理を済ませ、仕事など他のことに時間を使うことの方が重要だと「鞍替え」したと、本人が記している。

個人の価値観の問題ではあるが、もともと料理に時間と手間をかけてきた人が、そこまで趣旨変えすることになった理由に興味がわき、著者に質問を送ってみたところ、すぐに返事が返ってきた。

戻ってきた返事はこちら。

著者との対話

I am optimistic about food for two reasons, both to do with science. First, it helps us understand better how to grow, store and preserve food, which will allow us to feed a continually expending(ママ)population. Second, although many people, at least here in the US, paint the food industry as malevolently creating unhealthy food because it sells, I know that at least in the non-snack items, this was often because it was the only way to achieve long-shelf life. There are now new ways to do this that use less, salt, sugar and chemicals and retain nutritional quality more. So, yes, I think that's cause for optimism!

以下、サカイ意訳(誤訳があればご指摘ください)。

私が食べものについて楽観的でいるのは、二つの理由によります。どちらも科学に関係することです。
一つ目の理由は、私たちは、科学によって、食べものがどう作られ、保管、保存されるべきかをよりよく理解できるのです。それによって(こそ)増え続ける人口に対応することができるでしょう。


二つめの理由は、少なくともアメリカに住んでいる多くの人々は、食品業界は、不健康な食べものを生み出していると知っていながら、それが売れるからという理由で作っていると思っています。私は少なくともスナックではないもの(?)についてそうだと知っていますが、かつてはそうすることが長期間棚に並べておくための唯一の方法だったからということが多いのです。今は、塩や砂糖、ケミカルなどの使用量を減らし、栄養価もより多く保てる新しい方法があります。

 

そう、だから私は食の今後に楽観的でいられるのです。

 

う〜ん。
でも、やはりモンサントやカーギルなどのあり方を見ていると、そこまで楽観的にはなれない私がいる。安易に不要な添加物を入れる業者も簡単になくなるとは思えないのだ(と著者に感想を送ったが、今回は返事なし)。

その後、ネイティック研究所のfacebookページを訪れたものの、どこかで気持ち的にストップがかかり「いいね」を押せない自分がいたのだった。
私たちの食卓が、軍隊の、アメリカの(企業の)影響の元にあることを改めて痛感させられる本ではある。